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不動産オーナーとインボイス制度

2021/05/06

[相談]

 会計事務所に勤務する者です。
 会社の社長やその親族が、個人所有の建物を本社事務所として会社に賃貸し、不動産収入(消費税課税売上高が年1,000万円未満で消費税免税事業者に該当)を得ているケースが多くあるかと思います。
 2023年(令和5年)10月1日からインボイス制度が導入されますが、それらの不動産オーナーや会社には、消費税法上、どのような影響が生じる可能性があると考えられるでしょうか。

[回答]

 適格請求書等保存方式(インボイス制度)導入後は、消費税課税事業者でないと適格請求書(インボイス)を発行できないため、ご相談のようなケースでは、オーナーが課税事業者を選択して消費税を納付しないと、賃貸人である会社において消費税の仕入税額控除の適用を受けられなくなります。

[解説]

1.現行の消費税仕入税額控除の要件

 現行の消費税法では、原則として、事業者がその課税期間の課税仕入れ等の税額の控除に係る「帳簿及び請求書等」を保存しない場合には、その保存がない課税仕入れ等の税額については、仕入税額控除の適用を受けられないことと定められています。

 また、上記の帳簿及び請求書等とは、法令で定める次のような事項が記載されているものであると定められています。

(帳簿の場合)

 ① 課税仕入れの相手方の氏名又は名称
 ② 課税仕入れを行った年月日
 ③ 課税仕入れに係る資産又は役務の内容
 ④ 課税仕入れに係る支払対価の額

 など

(請求書等の場合)

 ① 書類の作成者の氏名又は名称
 ② 課税資産の譲渡等を行った年月日
 ③ 課税資産の譲渡等に係る資産又は役務の内容
 ④ 課税資産の譲渡等の対価の額(消費税等の額を含む。)
 ⑤ 書類の交付を受ける事業者の氏名又は名称

 など

2.インボイス制度導入後の帳簿及び請求書等の記載事項

 2023年(令和5年)10月1日から施行される新消費税法では、上記1.の請求書等について、「事業者に対し課税資産の譲渡等を行う他の事業者が、その課税資産の譲渡等につきその事業者に交付する適格請求書又は適格簡易請求書」等である、と改正されています(なお、仕入明細書等の書類についても、課税仕入れ等の相手方の氏名等に加えて「登録番号」を記載することとされています)。

3.適格請求書を発行できる事業者の要件

 適格請求書(または適格簡易請求書)は、税務署長の登録を受けた事業者しか発行できないことと定められています。
 さらに、消費税免税事業者はその登録を受けられない、とも定められています。

4.インボイス制度導入後の不動産オーナーが求められる対応

 ここまで述べたように、インボイス制度導入後は、適格請求書の発行を受けられない場合には、原則として仕入税額控除の適用は受けられなくなります。

 したがって、

・社長が会社に個人所有の建物を本社事務所として賃貸して家賃を受け取っている
・その消費税課税売上高が年1,000万円未満のため、社長個人は消費税免税事業者に該当
・会社は、その支払家賃について仕入税額控除の適用を受けている

 上記のようなケースにおいて、インボイス制度導入後は、社長個人が消費税課税事業者を選択(消費税を納付)し、さらに、適格請求書発行事業者として登録をした上で、支払われた家賃について適格請求書(インボイス)を会社に交付することが求められることになります。社長がそれらの手続き等を行わない場合には、会社は仕入税額控除の適用を受けられなくなり、納付する消費税額が増加することになると考えられます。

 ただし、これには経過措置があり、インボイス制度導入後すぐに仕入税額控除の全額が適用を受けられないわけではありません。2027年9月30日までは8割、2030年9月30日までは5割の控除が受けられます。この点もあわせて確認しておかれるとよいでしょう。

 今回のご相談のような取引は、多くの中小企業で存在するのではないかと思われます。
 現時点では、軽減税率の複雑さや煩雑さについ目が行きがちですが、経営者にとっては、インボイス制度導入のほうがより重大な問題となる場合もあると考えられますので、できるだけ早めに情報提供を行い、対応策を検討した方がよいのではないかと思います。

[参考]

 消法30、新消法30、57の2、新消令46、49など

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